ChatGPTに「新スタートレック」の夢を見る (2023年2月)

「新スタートレック (原題"Star Trek: The Next Generation")」をご存じでしょうか。アメリカで1987年から足掛け7年間も放送された宇宙探検もののTVドラマで、劇場版も4作も作られるという超人気コンテンツでした。日本でもよく深夜に放送されていまして、私、中学生の時に寝不足になりながらも毎週楽しみに視聴していました。

 

 正直な話、私は私が小~中学生ぐらいの時に放送されていたハリウッド映画が大嫌いでした。というのは、あまりにも浅すぎるエンタメ内容にただ派手なだけのアクションのものばっかりで、アメリカ人ってこんなもので喜ぶバカばっかりなのか(←すいません、伊集院光氏提唱の方の"中二病"まっさかりの頃の自分の感想です)、と思っていました(余談ですが、「中二病」という言葉、変な意味に代わってしまいましたよね…)。ところが、たまたま深夜に放送していたこの番組を見まして、その優れたSF設定と、艦長ピカードをはじめ宇宙船エンタープライズに乗船している魅力的な乗組員たちが織り成す哲学的なドラマにより、完全に考えを改めました。おそらく、この時代に放送されていたすべてのSF作品においてトップランナーであった作品で、今でも人気の高いシリーズです。最近、Amazonプライムで配信してるスタートレックのアニメも、新スタートレック準拠でしたね。

 

 新スタートレックは全7シーズン178話(しかも1話が約1時間)というとんでもなく長い作品ですので、どの話が良いかとか言ってしまうととんでもなく長い話になりますので、とりあえず私が大好きな話を2話だけ挙げます。

 

・第102話「謎のタマリアン星人」(原題: "Darmok")

 言語によるコミュニケーションが取れないというタマリアン星人と意思疎通を図ろうとするお話。実はタマリアン星人はタマリアン人の歴史的な話を例えてを紡ぐという言語構造で、それを理解させるためにタマリアン星人の艦長はピカード艦長を拉致しある危険な星で2人だけでサバイバルを行うのだが…という話なのですが、とにかく一度見てください。全く違う文化や言語をもつ生物同士がどのようにすれば意思疎通ができるか、ということを表現した素晴らしい回です。

 

・第125話「超時空惑星カターン」(原題: "The Inner Light")

 正体不明の探査機から放たれた光に打たれたピカード艦長は意識を失い、目覚めるとカターンという滅びゆく運命の星の住人になっていた…実はこれは滅びゆくカターン星の人々が「自分たちが生きていたことを誰かに覚えていてほしい」という意図で、カターン人としての一生の夢を見せるシステムで、実際には30分しか意識不明にはなっていなかったのですが、ピカード艦長自身は夢の中でカターンで30年分の人生を経験していた…という、つまり「胡蝶の夢」をSFでやった感動作なんです。が、ただ一つ文句を言いたいのは、この回の原題は"The Inner Light"で、これ、ビートルズが瞑想や老荘思想に影響を受けた時に作った歌の題名なのですが、なんでこんな「超時空要塞マクロス」みたいなあほな邦題を付けたんでしょうか…。

 

( ゚д゚)ハッ! もしかして「Inner Light : 内なる光」を「Linear Light : 一条の光」に読み違えた結果の、「一条の光」→「一条輝(マクロスの主人公)」だからなのか? (今実際文章にして気づいた)。それとも邦題を考えた人は、正体不明の探査機をブービートラップという風に解釈したのか?

 

 で、本題ですが、最近話題の対話型AI"ChatGPT"を見まして、ついに新スタートレックの登場人物であるデータ少佐のプロトタイプが出たか、と思ってしまいました。このデータ少佐、アンドロイドという設定で、膨大な蓄積データに瞬時アクセスすることをベースに他人とコミュニケーションをとったり、問題が生じた時の解決策を瞬時に導き出したりするのですが、これ、まさにChatGPTですよね。このように、この新スタートレックという作品はとても先鋭的なSFでして、SiriやGoogleアシスタントが出た時、正直私は「あれ、これって新スタートレックでやってたコンピュータとの会話じゃない?」と思いましたし、また最近「メタバース」と名前を変えて再度流行り始めましたが、いわゆるVR・ARが出た時も「ああこれは新スタートレックのホロデッキ(詳細説明はwikibediaで)だな」と思いました。

 

 このように、この作品が面白いのは未来の技術の予想を意図的にやっていたことで、その極めつけの1つは第26話「突然の訪問者(原題: The Neutral Zone)」だと思います。このお話、まず初めに今の我々の時代から冷凍睡眠で目覚めた人たちが登場し、彼らが「経済新聞が欲しい」と言ってきます。その時、ドラマの登場人物である遠い未来の人たちは「貨幣経済はもうなくなりました」と言います。

 

 実はこの作品、「人類は貧困や食糧問題、エネルギー問題を解決している」という設定です。どうやって解決したかといいますと、この世界では「レプリケーター」という物質を生成できる装置が作られ、食糧に限らず金やプラチナなども簡単に生成できることから貨幣経済が終わってしまい、人類で争うこともなくなった、という設定なのです。この設定をギャグのようにさらっとこの話で説明してしまうのですが、ここにちょっと皮肉が隠されていて、「食糧問題やエネルギー問題を解決しない限り、人類は争うだろう」ということを示唆しているわけです。

 

 また、先に説明したデータ少佐ですが、彼はこのお話全体を通じて「自分が人間になるためにはどうしたら良いのか」と悩んでいます(元ネタは人造人間キカイダーでしょうか。まあキカイダーも元ネタは鉄腕アトム、さらにさかのぼるとアトムも元ネタはピノキオなんですが…。この作品、実は日本のアニメや漫画をかなりインスパイアしていて、出てきてすぐ撃沈しますが「ヤマト」という名の宇宙船が出てきたり、劇中でなぜか「うる星やつら」というワードが…「ビューティフル・ドリーマー」でも見たんでしょうか)。第35話の「人間の条件(原題: The Measure of a Man)」では、データ少佐が人間かそれともただの機械か、ということで裁判になるという話があったり、今後ChatGPTが社会的にどのようになっていくかを予見しているようなところもこの作品にはあります。

 

 このように、良質なSFは未来を予測してくれていると思います。日本製のSFであれば最近では「攻殻機動隊」が良質な、未来を予測したSFであったと思います。もしみなさんが「なにか新しいものをつくる」技術者を目指すのであれば、良質なSFを見たり、読んだりすることをお勧めします。そこに未来へのヒントがあると思います。